月夜交臥………(ため息)…やっぱり未遂。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 既に夜もふけた正妃の寝室、鏡台から寝台に向かいかけた銀正妃は、いつもと少し違う印象に違和感を覚えて、思わず口にした。

「…どうした?」

 先に寝台に横たわっている皇帝、銀正妃、こと銀河の夫でもある双槐樹が寝台の奥に陣取っている。

「んー???」

 銀河は少し首をかしげて、違和感の正体に気がついた。いつもは、銀河が寝台に入るのを待って、後から入る双槐樹が既に奥にいる。そして、どうやら動く気は無いらしい。

「ああ、そっか、いつもと順番が逆なのね……どしたの?」

 その問いかけに、あまり深い意味は無かった。だから、双槐樹が、別段意味は無い、と答えるのを聞くと、それ以上は銀河も追及せずに、眠い事もあり、床についた。
 早くも寝息をたてている銀河は知らない。

 双槐樹が、敢えて右手が自由にならない方に眠っている、という事に。

 利き腕を、自身の体で押さえつける。しかし、眼前には事もあろうに銀河のいとけない寝顔があった。やわらかな寝息が、首筋にかかる。何故こうも無防備なのか、本当に娘の自覚があるのか、女大学はなんのためだったのか、と、双槐樹は泣きたくなる。だったら寝台を別にすればいいのだが、そんな気はさらさら無い。そして、自分が背を向けてしまえばいい、という事もまったく念頭に無いわけではない。自身にそんな自虐趣味があったのか、と、思わず銀河を抱き寄せてしまいそうになる右手は半身の下。

 …もっとも、だからと行って左手がまったく動かない、というわけでは無いのだが。

 右手ほどには自在に動かない左手を振り上げてはおろし、振り上げては下ろして、皇帝陛下の夜は明ける。

 清清しく目覚め、元気に

「おはよ」

 と、笑いかける妻の笑顔に、理性と欲望の狭間で難儀をした夫は、深く、ふかぁく、ため息をつくのであった。

(了)

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